寝ても覚めても学校のこと。~学校経営の経営課題(人事・財務・募集・施設などなど)について考えるブログ~

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「選択と集中」が正解ではない

先日国会を通過した、とある法案。

世間的にそれほど周知されることなく、成立してしまった感もあります。

が、そこには大きな問題を孕んでいるとの指摘も多くあります。

日経新聞より。

 

www.nikkei.com

(会員限定記事となっております。ご了承ください)

 

この記事は、先年成立した大学ファンド、

そして国際卓越研究大学の制度について、

その妥当性を検討する内容になっています。

 

10兆円という規模で組成される大学ファンドから、

特定の大学に対し毎年3,000億円を拠出するしくみですが、

大学がその認定を受けるためには

研究体制や業務執行体制などを強化する必要があります。

 

政府資料では、米ハーバード大や英オックスフォード大などの大学を、独自に将来ビジョンを策定し、独自基金により財政的に自立し、挑戦的な研究を行っていると評価する。他方、日本では、大学が国の機関であったときの発想から変わっていないと指摘する。

 

日本の国立大学にビジョンがない、そして大学ごとのビジョンが大事、

という前提に立つとすれば、

各大学の自主的な裁量の幅を広げていくことが肝要、

となるはず。

ところが現状の日本ではこれに逆行する施策が進められています。

 

卓越大学を含め、大規模な国立大については意思決定機関として「運営方針会議」を設置することとされ、ガバナンス改革法案が国会に提出された。これは世界の例にならうものだが、既存の役員会などと機能が錯綜する。そもそも学長の権限を強化してきた法人改革とは矛盾している。

この会議の委員の任命には文部科学相の承認が必要であり、加えて、政府は卓越大学の研究体制などの状況を確認して「伴走支援」するとしているが、こうした政府の統制や介入は、世界トップレベルの大学では聞いたことがない。

 

ここまでを読んだだけでも問題を感じざるを得ないのですが、

これが研究力を高めるという目的を達するという意味では、

さらに大きな問題がある、と筆者は指摘しています。

 

 

研究力低下の理由は多くの分析により明らかだ。第1に博士の減少、非常勤や任期付きの増大による若手研究者の雇用不安定化だ。博士の数は人口当りで英独の3分の1程度である。第2に、大学の基盤的経費である国立大学運営費交付金が過去20年間にわたり削減されたため、競争的資金は増えても常勤教職員は増やせない。第3に、授業時間と事務作業が増えて研究時間が減少したことだ。

 

「科学技術指標2023」によりますと、

日本のトップ10%被引用論文数(2019~21年の平均)は、

中国、米国、英国、ドイツなどに後れ12位となっており、

1999~2001年の4位から大きく順位を下げています。

 

先進国を参考にするというのなら、ドイツがよい例になる。論文の質を示す被引用数では日本を圧倒している(図参照)。文科省科学技術・学術政策研究所の分析によると、ドイツは日本と比べて上位に続く大学の層が厚く、特定の分野に強みを持つ大学が存在している。東京大などに集中する日本は負けている。

ドイツ連邦政府は、大学支援のために「卓越構想」(06~17年)を設けた。大学院支援、卓越クラスター(特定分野の研究支援)、将来戦略(機関を支援)の3つのプログラムがあり、総計46億ユーロ(約7500億円)が投じられた。

これも当初は、世界トップクラスの大学と競争するため6大学に集中投資する方針だったが、多くの大学の設置者である州政府が反対して見送られた。卓越構想は終了後、専門家による複数の評価が行われた。その後制度が見直され、19年から新しい「卓越戦略」が始まっている。

 

さて、今回は国の施策を採り上げましたが、

研究力を高める、あるいは学力をつける、という意味で、

選択と集中」という考え方は少々危険な側面がある、

という点に気が付きました。

国レベルだけでなく、各校園においてもおそらく、

限られた財源で成果を求める、ということが

これからさらに重要なテーマになりそうなのですが、

選択と集中が果たして本当によい施策なのか、

一度立ち止まって考える必要があるのかもしれません。

 

高くて美しい富士山のことを思い返しています。

裾野の広がりこそが、山の高さを生んでいる、のでしょう。

そしてその美しさが格別であることもまた、同じ理由によるとすれば、

さて経営資源をどう活用、配分するのがよいのか、

落ち着いて検討してみてはいかがでしょうか。

 

(文責:吉田)

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