政府が設置したファンドは今後機能していくのでしょうか。
日経新聞より。
(有料会員限定記事となっております。ご了承ください)
日本の研究力低下が止まらない状況を改善しようと、政府による10兆円規模の大学ファンド(基金)が本格的に動き出す。「科学技術立国の推進」を掲げ、国内大学の研究力を世界レベルに高める切り札と位置づける。ただ対象は数校に限られ、世界のトップ大学に迫るのは簡単ではない。有効な活用法を模索する必要がある。
以前このブログでも採り上げましたが、
本件ファンドのしくみは下の図の通り。
10兆円規模の資金を運用し、
5年以内に年間3,000億円の運用益を生み出したうえで、
そこから1校あたり年間数百億円を支援することで
研究力で世界と渡り合える可能性を持つ国内大学を生み出す、
というストーリーが立てられています。
現在の日本の研究力は決して高くなく、
文部科学省の科学技術・学術政策研究所によりますと、
指標となる被引用数がトップ10%に入る「注目論文」の数は、
主要7カ国(G7)で最低の10位。
しかも順位の急落は2000年代の半ばから顕著とのことですから、
基礎研究を軽視し、短期的な成果を狙うようになったことの
影響が及んでいるのではないでしょうか。
そして、この新たなファンドによる研究の活性化には
いくつかの問題点がすでに指摘されています。
ひとつは運用益をあてる仕組み。
関西学院大学の宮田由紀夫教授は
「米国では私立大学も研究費の多くが政府の資金で支えられている。
大学院生への奨学金を増やす施策の方が本筋だ」と指摘しています。
そして、資金の使い方。
米国の名門私立大の場合、寄付による収入や資産運用益は
「研究だけでなく奨学金などの教育活動にも活用し、
優秀な学生を集めて大学ランキングが向上する要因になっている」
(宮田教授談)とのこと。
さらに、ファンドでの支援対象。
政策研究大学院大学・永野博客員研究員は
「大学格差が比較的少ないドイツと比べると、
日本では東京大学や京都大学などのトップ層は比較的強みを持つが、
中間層の弱さに課題がある」と指摘しています。
実際、2013~17年の平均の論文数を調べると、
各国それぞれで上位7位までの大学の比較では、
日本はドイツよりも多く論文を出しているにもかかわらず、
8~50位ほどまでの中間層では一転ドイツが上回るそうです。
「ファンドによる支援対象が数校にとどまれば、
国内上位層と中間層の格差がより一層広がる懸念があるのではないか」
と永野研究員は話していらっしゃいます。
大学はもちろんのこと、高校以下の学校種においても、
収入が限られる中で、教育機関としての生業を
どうやって維持、発展していくのか、
知恵を絞るべき局面が到来しています。
限られた収入をいかに配分し、学校の活動を活性化させるのか。
しっかりと考えておかねばならないテーマではないでしょうか。
(文責:吉田)