あれだけ話題になった麹町中学で、変化が起こっているようです。
日経新聞より。
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「定期テスト廃止」「私服通学可」などの改革で知られる東京都千代田区立麹町中学校が岐路に立っている。今年度に入り学校側が改革路線の見直しに着手し、生徒や保護者に動揺が広がった。同校は近年、改革のモデルを提供した学校の一つといえ、今後の変化が注目を集めている。
2014~19年度に同校の校長を務めた工藤勇一氏はすでに有名人ですが、
現在は横浜の私学の校長を務めておられます。
当時の改革例でよく採り上げられるのは、
- 中間・期末テストに代えて、各教科の単元ごとに行う「単元テスト」を導入
- 服装や頭髪のルールはPTAに決定を委ね、「場面に合った服装をする」だけとし、服装指導を廃止
- クラス担任制から、学年の全教員で生徒を見る「全員担任制」に
- 三者面談の際は生徒が教員を選ぶ
といったところです。
工藤先生の書籍をすでに読んだ方にはご理解いただけるかと思いますが、
こういったひとつずつの施策はすべて、
「生徒の主体性や自己決定を尊重する」という考え方に基づいています。
学校は自然と「規律重視」「画一性が強い」という性質を帯びがちであるところ、
この打破を狙ってもいます。
しかし、この路線は今年度変化が起きた、と記事には書かれています。
単元テストへの再挑戦をなくし、
三者面談の教員は学校が指定、
来年度の入学生から「公式ウエア」が導入され、
標準服など決められた服装の着用を基本とすることに…
麹町中は報道機関の取材を受けていないが、10月に入りホームページ上で公開した「学校だより」で見直しを進める理由を明らかにした。
そこでは(1)麹町中では自由を旗印にした経営がなされ、自由な学校だという都市伝説が生まれた(2)現状は「自律」を「自由」と勘違いした生徒が多い――と指摘。「勘違いを整え、自己主張に消極的な生徒も安心して過ごせる学校を改めてつくっていく」としている。
区教委の説明によると、現在の麹町中では主体的に行動できる生徒とそうでない生徒の差がひらき、学力の二極化などの課題が生じている。服装では体育の授業にフード付きの服で参加する生徒もいて危険があるなど、ルールが十分に守られていない。
単元テストは25分と短いため思考の過程を十分に評価できず、集中力の育成にも適さないといった短所を踏まえ、見直しに乗り出したという。
学校もまた生き物ですし、背景となる時代も変化し、
通う生徒もその保護者もどんどん変わっていきます。
学校が是とする事柄が変わることに、私自身はそれほど抵抗感はないのですが、
それがあまりに短期間に変化することが果たしてどうなのか、
そして、目に見える事柄だけでなく、
それらの施策の根底にあった理念や考え方はどうなのか、
といったところはとても気になります。
自ら考え判断する力を養う、ということを大切にしようとした
以前の改革の旗印はすでにその意義を失ったのでしょうか。
改革の見直しは始まったばかりで是非を論じるのは難しい。興味深いのは工藤氏の改革と現在進行中の見直しでは、土台にある「子ども観」が全く異なることだ。
工藤氏のそれは子どもの主体性を重視し、子どもを「支援」の対象とみる。同氏は8月、日本経済新聞のインタビューでこう語った。「日本の教育は『与え続ける教育』だ。子どもは生まれた瞬間から主体性を持っているのに、理想像に近づけようとして教員が手をかけすぎる」「結果、自分で社会を変えようとする当事者意識を失う」……
現在の麹町中は「見守る、支援することが子どもの主体性を引き出すという考え方の限界に気づく必要がある。指導で導き引き上げながら支援の必要な場面で確実に支えていく」(学校だより)と正反対の立場だ。
今回の報道を見る限り、現状においては、
学校すなわち教育委員会側と、保護者側で認識の差が出てきている、
という状況のようですが、
さてこの学校に通う生徒はどう感じ、どう考えているのでしょうか。
今回のことは、麹町中学生にとっても、他の中高生にとっても、
学校のあり方を考えるという格好の教材になりそうな気もします。
どれが正解とも言えない中で最善の選択を為すために、
生徒の存在が置き去りにならないことを心から願います。
そして貴校園では子ども自身が考え、判断するということを
どのように捉えていらっしゃるでしょうか。
自律と自由をはき違えている、と断じられるほど、
大人は自律的に動けているのでしょうか。
私はむしろ、大人は忖度の中でばかり生きていて、
自律や自由を体現できる社会をつくろうとはしていないとすら思います。
もちろん自戒を込めて、そう思います。
子どもたちの未来を輝かしいものにする気持ちが本当にあるなら、
私たちがしてきたのとは同じ道を通らせてはならない気がするのですが
いかがでしょうか。
工藤校長期の麹町中が重視したのは個々の自律と多様性を尊重しながら対話で合意形成するプロセスだった。それは現在の麹町中にも、外国人材が増え共生社会づくりが求められる今後の日本にも必要な営みである。
(文責:吉田)