日経新聞の連載、「やさしい経済学」で先月掲載されていたのが
「実験で考える労働生産性」。
今日と明日のブログでその記事を採り上げてみたいと思います。
(有料会員限定記事となっております。ご了承ください)
基本的な経済学の理論では、労働生産性が賃金に反映されない場合、努力はクビにならない最小限の程度でしかおこなわれないと予想されます。しかし、社会学や心理学の「贈与交換(ギフト・エクスチェンジ)」の理論を用いると、賃金を高くすると労働生産性も高くなると予想されます。
上の文章を読んで、どうお感じになりますでしょうか。
・労働生産性を賃金に反映させない場合→努力はほとんどなされない
・賃金を高くすると→労働生産性が高くなる
となるなら、やはり労働生産性を賃金に反映させることは大切だ、
という結論になると私は感じてしまいました。(単細胞なんでしょうね)
ただ、ここで注目すべきは「贈与交換」というしくみ。
このメカニズムの1つは、高賃金にしてくれた使用者に対し、
労働者が「お返しをしたい」と思う返報性(互酬性)で、
下記のフィールド実験で明らかになっているそうです。
実験は、大学の図書館において、6時間・時給12ドルで
書籍の情報をコンピュータに打ち込む、というもの。
実験は2つの群に分け、「ノーギフト」群は時給12ドルでそのまま働き、「ギフト」群には作業開始前に時給が20ドルに上がったとアナウンスしました。生産性はデータを入力した書籍の数で計測しました。
結果として、作業の前半3時間ではギフト群の方がノーギフト群より高い生産性を発揮しましたが、後半3時間ではその差は無くなりました。米シカゴ大学のジョン・リスト氏が実施した、寄付集めについてのフィールド実験でも同様の結果がみられました。このため、贈与交換の効果は短期的と結論付けられました。
上記の一方で、ギフトは賃金以外も想定できるとして、
別の実験もなされています。
ドイツ・ボン大学のセバスチャン・キューべ氏らの実験では、賃金上昇による「金銭的ギフト」では生産性上昇の効果は薄い一方、プレゼントなどの「非金銭的ギフト」は効果があるという結果を得ました。同氏らの別の実験では、賃金カットで生産性が低下していました。
私自身の経験上、スタッフをつなぎとめるには賃金を上げるしかない、
と思い込んでいる経営者さんもいらっしゃいますが、
賃金は労働の衛生要因と言われることがあり、
どんなに高くしても比例的に満足を得られるものではない、
ましてや職場につなぎとめる決定打にはならないことを
改めて覚えておく必要がありそうです。
そしてもうひとつ、賃金ではないギフトを与えることが
実は有用で大切なことだということも覚えておきたいですね。
上の実験では登場しませんでしたが、
気に留めること、声をかけること、労うことなどは
おそらく大きなギフトになるのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
(文責:吉田)