定年再雇用者に対する賃金をどのくらいの水準にするのか。
おそらく、私学でも課題のひとつになっているのではないでしょうか。
今はそうでなくても、今後課題化される可能性も高いと思われます。
(会員限定記事となっております。ご了承ください)
現在、高裁で審理中の自動車学校訴訟。
そのテーマは「定年後の賃金減額がどこまで認められるのか」。
この事件の顛末を簡単に押さえておきましょう。
愛知県に住む男性は30年以上にわたり、自動車学校で
普通自動車の講習や学科などの指導を行ってきましたが、
60歳で定年となり、同じ職場で再雇用されました。
が、再雇用により賃金は大幅に減少。
月額約18万円だった基本給は8万円ほどになり、
1万3千円の家族手当もゼロに。
勤務内容や時間はほぼ同じなのに、です。
そして、労働組合が定年後の待遇改善を求めたものの、会社側は拒否。
訴訟に至った、というわけです。
当時の労働契約法は正社員と非正規社員の「不合理な待遇格差」を禁じていた。21年には同種の規定を盛り込んだ「パートタイム・有期雇用労働法」も全面施行された。同一労働・同一賃金の原則を明文化した法整備は、多様な働き方を促す政策の一環でもあった。定年後に嘱託職員として継続雇用された男性のようなケースも、厚生労働省の指針は保護の対象と位置付けている。
ただ、加齢による体力低下や年金・退職金の支給などの事情に鑑み、賃金を低く設定することも認められた。再雇用などで待遇に格差が生じること自体は、最高裁も別の訴訟で「不合理でない」と判じた。
実際、定年を超えると給与が急減する例はそれなりに多いようで、
2023年の賃金構造基本統計調査(速報値)によれば、
55~59歳の平均月給(376,400円)に対し、
60~64歳は305,600円と、2割ほど少なくなっています。
ただ、減少幅は平均で2割にとどまる、
ということは覚えておく必要があるかもしれませんね。
この訴訟では、基本給の6割カットが「不合理」かどうかが争われました。
そして自動車学校側が強調したのは、苦しい業界環境と厳しい経営状況。
「子どもの人口が減少している。経営はどこも非常に苦しい状況です」。社長は陳述書に切々とつづった。
業界団体によると、最多の1991年に全国1477校あった自動車学校は、2022年12月末には1240校となった。卒業生も約158万人とピーク時から4割近く減った。
こういった状況は、私学関係者の皆様にも共感できるところが
あるのではないでしょうか。
地裁と高裁は「労働者の生活保障の観点からも6割の減額は看過しがたい」
として学校側に差額分の賠償を命令しましたが、
最高裁は2023年7月に一、二審判決を破棄。
「不合理な待遇格差」に当たりうるかどうか、
基本給のあり方や労使交渉などの経緯について検討を尽くすよう求め、
審理を名古屋高裁に差し戻しました。
学校側は訴訟で「人件費は若年指導員の確保、教育を主眼に使いたい」との姿勢を強調してきた。定年以降も賃金を維持すれば、しわ寄せは将来的に会社の中核となるはずの若年層に及びかねない。年功賃金制によって定年直前の賃金がその時点の職務能力や評価、成績と必ずしも一致しないまま最も高くなっていることも付言した。
さてこの判例を踏まえて、貴校園では再雇用後の賃金について
どのようにお考えになるでしょうか。
個人的に感じるのは、同一労働同一賃金の原則からすれば、
労働の中身が同じであれば賃金を大きく下げることは問題となりやすく、
避ける必要があるのではないか、ということ。
と同時に、現役世代の賃金カーブの持ち方についても、
今一度検討が必要なのではないか、ということも感じます。
私学の場合、定年直前の賃金があまりに高くなりすぎているケースも
それなりにありそうですから、そこからの急減を防ぐため、
さらには今回の判例で自動車学校側が主張しているような
「若手の処遇」の充実のためにも、これまでとは少し違った
賃金カーブの描き方を模索せねばならないのではないでしょうか。
貴校園でもぜひご検討いただければと思います。
(文責:吉田)