労働分配率=人件費÷付加価値。
付加価値を金額的にとらえるのは簡単ではありませんが、
視点の一つとして留意しておきたい指標です。
日経新聞より。
働く人の賃金への分配が滞っている。財務省の法人企業統計をもとにした民間試算で、2021年度の労働分配率は62.6%と前年度から5.7ポイント低下した。バブル景気で企業の利益が伸びた1990年度以来の低水準だった。利益を内部留保や配当に回す企業の姿勢が影響している。物価高が続く中、賃金への十分な還元がなければ個人消費を下振れさせかねない。
まずは労働分配率の推移をグラフで見ておきましょう。
大きなトレンドとしては、2000年以降下がってきているふうにも見えますね。
労働分配率は企業の稼ぎがどれだけ人件費に回ったかを示す。低下するほど企業の利益が賃金にまわらず、消費は伸び悩む。分配率が高すぎると投資余力が減るなど経営上のリスクになる。短期的には好景気では利益が増えて下がり、不景気では逆に上昇する。
ここからは完全に個人的見解になってしまいますが、
2021年度は前年からのコロナ禍がこの指標に大きな影響を与えている、
と感じています。
まず企業業績については、前年に比べ通常期に戻った印象が強く、
加えて雇用調整助成金を中心に、休まざるを得ないスタッフがいても
そこに対する手当も充実していました。結果、利益は多くなります。
一方で、人件費については、リモートワークの普及もあり、
残業代を中心に減少に向かう世情にあったような気がします。
これが企業業績を後押しした面もあるでしょうし、
人件費自体の伸びを抑えた面も当然あると思います。
下のグラフを見ても、どうもそんな気がしてなりません。
また、上場企業の場合には、株主への配当を充実させる傾向もみられ
(2021年度の配当金は2000年度の5.4倍)、
このことも労働分配率を下げているようにも思われます。
さらには、国際的に先行き不透明感が強まっていることも、
企業の留保増を促す材料になりがちだとも思いますので、
今後も労働分配率はそれほど伸びないのかもしれません。
さて私学の労働分配率をどう考えればいいでしょうか。
人件費を何で割るか、というところは議論の余地があると思いますが、
仮に「自律的収入のみ」だとすると、
納付金+寄付金+付随事業収入、といったところになるでしょうか。
この計算によれば、おそらく多くの学校法人で100%前後の数値、
あるいは100%を大きく超えるケースもあり、
稼いだ分以上を人件費として分配している、との評価も可能かもしれません。
一方、教育活動収入全体を分母とすれば、労働分配率は概ね
60~70%くらいになるのではないでしょうか。
この数値自体は概ね適正であろうと思う一方で、
教育活動収入の中には具体的な支出と紐づいているものがありますから、
その中身に留意していただくことも必要でしょう。
そして、少し気に留めておく必要があるのが、施設整備のことです。
経年によって建替え期が到来している私学はおそらく数多く存在すると思います。
大きな支出が控えてさえいなければ、毎年の収支差額がトントンでも
それほど問題がない学校経営ですが、数十年に一度、
必ず莫大な支出が発生するのもまた学校経営の宿命です。
中長期を見据えて、労働分配率の適正値を探っていただければ幸いです。
(文責:吉田)