同一労働同一賃金の余波、と言っていいのでしょうか。
正社員の手当が変化しているとの記事です。日経新聞より。
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非正規社員に正社員と不合理な待遇差をつけることを禁じた「同一労働同一賃金」法制に合わせ、正社員の手当を削る企業が増えている。中には正社員が反発して訴訟に発展する例も出てきた。格差是正の取り組みが事実上の賃金カットとの批判を招くか、給与体系の改善で従業員の士気を高めるか。各社の経営手腕が問われる。
この記事に登場する済生会山口総合病院では、2020年10月から、
正職員だけに払っていた扶養手当や住宅手当を、
全職員向けの子ども手当と住宅補助手当に改めたとのこと。
具体的な内容は下の図が分かりやすくなっています。
この改正は最長2年の緩和措置を取って実施したものの、
今回訴訟を提起した職員9人は月540~3,000円の減収となったそうです。
労使が争っているのは、不利益変更の「合理性」。
不利益変更を行うための要件は次の6つです。
病院側弁護士は、
- 新たに手当を受ける非正規職員にとっては利益変更であること
- 旧扶養手当は、主たる扶養者であることが受給条件で対象は全員男性だったため、「女性職員が77%の山口総合病院では男性中心で時代に合わない旧手当は続けられない」→要件3はクリア
- 職員の過半数代表者の同意があり「労組とも誠実に交渉した」こと→要件5もクリア
とコメントされています。
逆に、職員側弁護士は、
- 従来の正職員向け手当を非正規に適用しても財政問題は起きず、手当改廃は人件費抑制が主目的である→要件3を否定
- 同じ済生会の山口県内の施設などで手当改廃がなく、病院側がアンケートなどで全職員の意見集約をしていない
と反論されています。
こうした争いの一方で、正社員の手当改廃が円滑に進んだ例もあります。
写真素材サイトを運営するピクスタは、同一賃金法制への対応で、子1人に月1万円出していた子ども手当と、結婚祝い金、出産祝い金各1万円を4月に廃止した。同時に正社員・アルバイトを問わず誕生月に1万円を贈る制度を始めた。
ちなみにこの例では、子ども手当を受けていた社員の基本給に
旧手当相当額を上乗せし支給額を維持されています。
デジタルマーケティングのメンバーズは、数年前から非正規社員の正社員化などの制度改正を進めた。20年秋には、導入したばかりだった在宅勤務手当を廃止。21年春に、入社2年目までの新卒社員に月2万円出していた住宅手当も取りやめた。
これはかなりの不利益変更に見えますが、同社取締役は
「廃止分原資は最大7.1%の賃上げに充て若い世代中心に配分した」と話し、
社員と経営層による社内協議会で「居住地の違いや生活コストではなく、
成果に報酬を払う考えを丁寧に説明し納得を得た」といいます。
ここまでご紹介した例をご覧になって、
私学関係各位はどのようにお感じにあるでしょうか。
もちろん、内容にも差がありますが、私自身、
病院と一般企業の風土の差は一定程度あるのではないか、とも感じます。
そして、私学はどちらかと言えば病院に近い風土があるのでは、
とも感じます。
同一労働同一賃金の実現に向けた制度整備は進めていく必要がありますが、
私学においてはより慎重に、組織風土も勘案した対応策が求められる
ような気がいたします。
(文責:吉田)