寝ても覚めても学校のこと。~学校経営の経営課題(人事・財務・募集・施設などなど)について考えるブログ~

大阪の学校経営コンサル会社/株式会社ワイズコンサルティングが、学校経営に関する情報を収集し発信するブログです。

給与制度改正の手順と心得 第1回 給与制度を変えるとはどういうことか

弊社発行の「学校経営情報」の本年度の連載は

給与制度改正をテーマにお届けしております。

Ys学校経営情報 2021年4月号(No.67)

 

本日のブログはその1回目の記事をご紹介いたします。

普段のブログよりも少々長めですがご容赦ください。


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 近年の少子化の進展に加え、人口偏在も社会的課題となる中で、私学においてはこれまでと同じ規模の収入を見込むことは難しくなってきました。一方、学校における働き方に対して厳しい指摘がなされることも増え、採用難とあいまって労務環境にも大きな変化が生じようとしています。

 このような経営環境において、各私学では、これまで維持してきた給与制度を今後も継続することができるのか、不安や心配が増幅しているケースが増えているようです。事実、弊社にも給与制度の見直しに関するご相談はここ1~2年で大幅に増えていて、実際に制度を変える動きを取っておられる学校法人も少なくないと感じています。そこで本年度の本紙連載におきましては、給与制度を変える際の手順を追いながら、それぞれの場面で特に留意すべきことについて確認していくことといたします。


 さて、まずは貴校園の現行の給与制度について少しふりかえってみましょう。以下、いくつか質問させていただきますので、できればその答えとともに、そう答えた理由を言葉にしてみてください。

  1. 貴校園の給与制度は、「払う側=経営サイド」からみて、納得感のある基準に基づいて支払われていますか?
  2. 貴校園の給与制度は、「もらう側=教職員サイド」からみて、納得感のある基準に基づいて支払われていますか?
  3. 貴校園の給与水準は、他校園と比較して遜色のないものと思われますか?
  4. 貴校園の人件費総額は、収支構造上、無理のない金額であると言えますか?


 それぞれの質問にお答えいただけましたでしょうか。ぜひともご自身なりの答えと理由を明確にしてから、この先に進んでくださいね。

 もし今、貴校園で給与制度を変えようとしておられるのであれば、その動機をこの機会に見つめ直しておきましょう。先ほどの質問でいうところの①②に「No」という答えが出たとすれば、それは給与制度を変える理由として適切なものと考えられます。


 給与制度をひとことで言えば、「貴校園は何に対して給与を支払いたいのですか」という問いに応えるしくみのことです。ほとんどの学校法人において給与は経営上の最大支出であると同時に、ほとんどの教職員にとって給与が唯一無二の収入です。給与は払う側ともらう側のいずれにとっても重要性の高い存在だからこそ、給与制度はできるだけ高い納得感を持って運用される必要があるのです。もしその納得感が損なわれているのであれば、給与制度を変えるタイミングが到来していると言っていいでしょう。

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 さて先ほどの質問で、③④に「No」と答えた方もいらっしゃることでしょう。冒頭申し上げた経営環境の厳しさゆえに、給与制度を変える必要があると感じておられる経営者も決して少なくないと想像できますし、そのお気持ちは理解できます。

 ただ、給与制度を変えることと、質問③④をクリアすることとは直接的にはつながらない、ということには十分気をつけていただきたいと思います。大切なことなのでもう一度お伝えしますが、給与制度とは「何に対して給与を支払いたいか」を決めるしくみです。年齢や経験に対して支払いたいのか、教職や一定の資格能力に対して支払いたいのか、人事考課や学校業績に対して支払いたいのか…といったことを決めているのが給与制度なのです。他校園よりも給与水準が高い(低い)こと、あるいは人件費総額が過大であることは貴校園の給与制度だけの問題ではないことにご留意いただきたいと思います。

 

 給与制度で最も大切にしていただきたいのはそのしくみのコンセプト、理念です。貴校園で給与制度改正の取組を始める際には、一番最初に、新しい制度のコンセプトを検討し、プロジェクトメンバー(※)間ですり合わせる時間をしっかりとるようにしてください。その際に場に投げかける問いの例をご紹介します。

 

 1)なぜ今、給与制度を変える必要があるのか?
 2)どんな給与制度を目指すのか?
 3)何に給与を支払いたいのか?

 

 この段階で投げかける質問としてはクローズドクエスチョンよりもオープンクエスチョンを用い、参画者のそれぞれが自分なりに言語化することを試みていただくのがよいと思います。時間がかかったとしても、全員が納得できるコンセプトを明示することが、その後の制度設計のみならず、法人全体への導入の際の説明等においても威力を発揮します。ぜひご注力ください。ご参考までに、弊社がご支援した際のコンセプト例を以下に記します。

 上昇を続ける賃金カーブにはしない
 安心して生活できる基盤を作る
 職務内容・仕事の量・責任を反映した手当でメリハリをつける
 法人全体の収支状況を賞与に反映させる
 個人別の評価は反映させない
 専任比率を高めるという方向性の中で給与制度を設計する
 退職金の比重を下げる

 

 給与制度改正には短くても半年程度、長ければ2~3年かかることも決して少なくありません。そして、長期間の取組の中では、当初に話し合われたこのコンセプトが時間の経過とともに薄れ、忘れられてしまうこともあるかもしれません。プロジェクトリーダーには常にこのコンセプトを携え、ミーティングの都度場に提供するなど、制度設計において常に確認しながら前進するようにしましょう。

 


※ 給与制度改正はプロジェクトを組成して実施することが適切と考えられます。またこのプロジェクトには労働者代表(現場教職員)に加わっていただくことで新制度導入が円滑に進むことが期待されます。ただし、給与制度のコンセプトは学校法人としてのビジョンや方向性を踏まえたものであることが必須ですので、コンセプトに関する議論は経営幹部を中心に実施していただくことが適切でしょう。コンセプトや方針策定は経営サイドで行い、その後の制度詳細をプロジェクトチームで行う、といったことも考えられます。

(文責:吉田)

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