教育の無償化施策がここ数年で一気に広がりましたね。
しかし、その政策が果たして良いものなのかどうか、
議論は分かれているようです。
今回は高等教育無償化についての大学学長のご意見をご紹介しましょう。
日経新聞より。
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このたび導入された高等教育の就学支援制度は主に
(1) 授業料等減免制度の創設
(2) 給付型奨学金の支給の拡充
の2つからなっています。
対象となる学生は住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の学生で、
所得基準は3つに分けられています。
授業料等の減免と給付型奨学金の支給は併用も可能で、
給付型奨学金は、自宅通学かどうか、通学先が私立か国公立かによって
金額が異なり、自宅外から私立に通う場合は年間91万円が給付されます。
授業料減免は入学金と授業料が対象で、入学金で最大28万円、
授業料は最大で年間70万円が免除されます。
この結果、国公立では入学金と授業料がほぼ全額免除となりますし、
私立ではおおむね7割程度が免除になるようです。
この記事の筆者はこの制度について、こう語ります。
当初構想よりも所得基準が緩和されたことで、想定予算規模約7千億円の教育支援が低所得層中心になされることは歓迎できるし、高等教育進学者が増加することは社会にとっても大きなプラスになる。背景には"社会保障"や"奨学"の原理があり、これまで進学できなかった若者に高等教育の門戸を開くことは大いに歓迎したい。
ただ、新制度は学生個人にとっては複数のリスクがある。
リスクの1つは、進学先の学校が要件を満たさないリスクです。
入学後に要件を満たしていないことを知った時もそうですし、
もっと可哀想なのはもともと要件を満たしている学校に入ったのに、
入学後に満たさなくなった場合です。どちらも受給資格がなくなります。
他のリスクとして、入学後の成績次第で途中打ち切りになることがあります。
退学・停学処分になった、留年が確定した、修得単位数が標準の5割以下など、
それはやむを得ないと思える原因もあるにはありますが、
中には「GPA(平均成績)等が下位4分の1」という要件があり、
これはかなり厳しいように感じられます。
学校側の要件設定にも問題があると筆者は指摘します。
「学問追求と実践的教育のバランスの取れた質の高い教育を実施する大学を対象機関とするための要件」には多くの疑問が残る。例えば、「実務経験がある教員の授業を一定数以上配置」という要件があるが、人文科学系など実務家教員が想定しにくい分野もあり、一律に求める必要があるとは思えない。「学校法人の役員に外部人材が2人以上」という要件も、これがなぜ、質の高い教育を担保する必要条件なのか、分からない。
なるほど、確かにそれが質の高い教育の要件とするには
少々無理があるようにも思います。
近年学校のガバナンスを重視している流れなのでしょうが、
学外役員が有効に機能するのかどうか、
形式だけでは内容を担保するのは難しいでしょう。
無償で教育が受けられるように、という方針は重要だと思う一方で、
その旗印の下、具体的に何をするのか、はさらに重要と言えます。
政策としてはもちろんのこと、これは各私学の経営においても言えることでしょう。
建学の精神は重要ですが、
その精神のもとで具体的にどんな教育を展開するのか。
今回の話題も他山の石になりそうな気がしますがいかがでしょうか。
(文責:吉田)