バタバタと決まってしまった高校無償化。
その影響を、経済学者はどう見ているのか、
という記事が挙がっていました。日経新聞より。
(会員限定記事となっております。ご了承ください)
日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者に政策の評価を問う「エコノミクスパネル」で高校無償化への賛否を尋ねた。自民党と公明党、日本維新の会がめざす私立高校向けの支援額引き上げには70%が反対した。支援拡充により私立の学費が上がることや、公立高の教育の質が低下することを懸念する声が多かった。
この「エコノミクスパネル」調査は、
2月13~18日にオンラインで実施されたものです。
47人という回答者数の少なさはあれ、学者が7割反対する施策、
というのもなかなか見当たらないのでは、と思うほど、
高校無償化施策は不評ですね。
この施策をおさらいしておきますと、
現行の就学支援金は、子供が私立高校に通う年収590万円未満の世帯に
上限39.6万円を支給するものですが、これをまず所得制限なしとし、
その後に支給上限額を引き上げる、というものです。
最新の情報では、その支給額は私立高授業料の全国平均額にあたる
457,000円が最大助成額になりそうな公算です。
今回の日経新聞の調査では、経済学者47人に
「上限額は多くの私立高をカバーできるよう引き上げるのが望ましいか」
を尋ねたところ、
「そう思わない」が57%、「全くそう思わない」が13%で、
計70%が反対した、ということです。
多くの経済学者は、私立高校向けの支援額を引き上げると、私立が学費を上げると指摘する。東京大学の渡辺安虎教授(実証ミクロ経済学)は「私立校は学費を上げても給付があるので出願者数が減らなくなり、学費を上げるインセンティブが生じてしまう」と懸念を示した。
慶応大学の小西祥文教授(実証ミクロ経済学)も「高校授業料無償化は私立校・塾の授業料の高騰や受験競争のさらなる過熱化を招いてしまう危険性があり、支援額を引き上げた場合、その効果が増幅される可能性は否定できない」との見方を示した。
私学では、特に生徒数確保が難しくなっている校園において、
この施策への期待感があるのは事実でしょう。
一方で、いくつか示されている懸念事項も当然ながら
頭に置いておく必要があるとも思います。
ひとつは、公立高校の質低下への懸念です。
実際に支援額を引き上げた大阪府では公立高校の定員割れが増えている。早稲田大学の野口晴子教授(医療経済学)は無償化の拡大により「私立高への集中が起こり、ただでさえ疲弊している公立高の教育環境の悪化を招くのではないか」と述べた。
昨今、首都圏を中心に私学人気が高まっている、と言われます。
記事にはこうあります。
公立よりも早い受験期や学校設備の充実ぶりなどが人気を呼び、私立志向は高まっている。私立高校生の割合は24年度に35%となり10年度から5ポイント増えた。一方、授業料が高いとして私立への進学を諦める生徒は一定数いるとみられる。
事実、授業料無償化を拡大した東京や大阪では、
私立高校への専願者が増え、公立高校の倍率が下がるという現象が見られます。
「私高公低」が指摘されてきた首都圏以外、
特に地方において公立校がどのような状況になるのかについては
世間的には重要な課題であろうと感じます。
公立校だけでなく、私学自身の教育の質に対する懸念も示されています。
教育現場などでは無償化を巡る協議について「教育の質を高めるための議論が置き去りにされている」(大学教授)との見方が多い。高校教育はグローバル化やデジタル化といった急速な変化に対応し切れていない。
私立高にはこれまで、公立よりも高い授業料に見合う教育環境を提供しなければ生徒が集まらないという認識があった。授業料が無償化されれば私立高同士の競争が緩和され、授業改善などが実施されず教育の質が低下するとの懸念もある。
さらに、このような税金の使い方が果たして是であるのか、
優先順位を誤ってはいないか、という懸念もあります。
一橋大学の佐藤主光教授(財政学)は質を高める政策として「教職員の処遇改善、教育のデジタル化などに予算を充てるのが優先」と述べた。
ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン氏らの研究により、幼児教育への充実が子どもの将来所得を向上させる効果が大きいと知られている。一橋大学の森口千晶教授(比較経済史)は「教育格差をなくすためには早期の教育投資の方が効果が大きいため、幼児教育や義務教育に関する支援の方が優先度が高い」と語った。
以前からこのブログでは、大阪府下で実施されている
いわゆる「完全無償化」があり得ない制度であることを指摘してきました。
今回議論されているのは完全無償化施策とは一線を画すものである、
との前提に立ちたいと思いますが、とはいえ、
私学の強みが無償化という目の前の人参で薄まってしまわないのか、
慎重な議論が必要だと感じます。
質が高いからこそ、相応の負担が生じる、ということを、
教育サービスを受ける各家庭にご理解いただくことのほうが
中長期的には大切なことだと思うのですがいかがでしょうか。
この機会に、貴校園でもぜひご一考いただきたいと思います。
(文責:吉田)