何だかモヤモヤしていた頭の中がクリアになった、
そんな印象を抱いた記事です。
今週月曜日のブログで触れた件です。日経新聞より。
(有料会員限定記事となっております。ご了承ください)
最近クローズアップされてきた、ジョブ型雇用。ジョブ型賃金体系。
コロナ禍を経て、働く時間や場所にとらわれず、
仕事の目的を達することを主眼に人事や賃金を考えることが
注目を浴びてきた、その経緯は十分理解できます。
ただ私自身、何となくしっくりこないものを感じていました。
それが何なのか、この記事を読んで分かった気がします。
慶応大学の鶴光太郎教授による記事ですが、
ポイントを絞ってたどってみることにします。
まずこの記事は、HRM(人的資源管理)施策について、
アメリカの研究論文で展開された
という視点で内容を紹介してくださっています。
「伝統的HRM施策群」とは80年代以前、米国で典型的にみられたHRM施策群で、古典的なジョブ型雇用と考えて差し支えない。仕事の幅は狭く定義され、賃金は職務給で成果とはほとんど連関せず、人事異動もないのが通例だ。そもそも職務遂行のためのスキル保有が前提であるため、正式なオンザジョブトレーニングはほとんどない。
また、徹底した分業を根本とした仕組みなので、従業員間の情報共有は非常に低く、その意味でチームという発想もない。景気が悪くなればレイオフで人員調整することになる。
これに対し、「革新的HRM施策群」は、下の図にまとめられている通り、
従業員のスキルや情報共有を高めることを意図し、
自主的・問題解決型チーム(QCサークルなど)、
人事異動、採用選抜強化、OJTなどを導入・活用するとともに、
成果に基づいたインセンティブ給や雇用保障を強化することを
主な内容にしているとのこと。
ここに含まれる多くの要素は、日本の各事業所でこれまで
行われたきたことのように感じますね。
米国企業、特に製造業を中心に革新的HRM施策群が80~90年代に普及していく契機になったのは、自動車産業を中心とした日本の製造業の大躍進だ。米国企業はジャストインタイムなど含めた日本のリーン生産方式の背景に、このような一連のHRM施策があることを学んだ。ただし日本のやり方を単に模倣するのではなく、彼らなりに概念・理論化して採用していったことにしたたかさを感じざるを得ない。
実際、米国の鉄鋼業の生産ラインのHRM施策とその影響について分析した米コロンビア大学のケイシー・イチニョフスキー教授らは、革新的HRM施策群を多く実施している生産ラインほど、生産性や品質が高いことを見いだした。特に個々の施策ではなく、上記の施策をまとめて実施した方が効果は大きいという意味で、革新的HRM施策群のそれぞれの施策には強い補完性があることが明らかにされた。また、まとめて実施することで、収益にも好影響があった。
なるほど、だからこそこのHRM施策は個別ではなく「施策群」と呼ばれるのですね。
そして、ここに含まれる人事施策の多くが
伝統的な日本企業にとってなじみ深いものであるものの、
唯一違和感があるとすれば「インセンティブ給」でしょう。
まさにこれが上の引用中「したたかさ」と書かれた点に関連するもの、
といえそうです。インセンティブが採用された理由は次の通りです。
問題解決型チームは、生産工程の現場で従業員同士が自発的に取り組むことを前提としている。しかし、古典的なジョブ型の世界をかなり単純化して言えば、従業員は上司や経営陣が指令して動く「コマ」にすぎない。このため、現場に近い従業員が自発的に動くためには、意思決定権限の下部委譲(エンパワーメント)が必要となる。
一方、権限が委譲され、それなりの責任が出てくるのならば、それを受け入れる従業員に対しインセンティブを付与する必要が生じる。このため、成果に基づいたインセンティブ給という発想がでてくることになる。また、チームワークを促進するために、グループ全体の成果で評価するようなグループインセンティブ給も、広く採用されるようになった。
さて、学校現場での働き方改革の必要性が言われ始めてから、
かなりの時間が経過しました。
貴校園では「理想的なしくみ」について、議論は深まったでしょうか。
何かをそのまま模倣するのではなく、自らの組織に合ったしくみを
練り上げることがやはり重要なのだと、この記事でも気づかされます。
組織の強みを認識し、それは継続して活かしつつ、
弱点を補強するようなしくみの導入を目指す必要があります。
上記「革新的HRM施策群」の中にもそのヒントはあると思います。
記事の末尾にあった一説を引用して、
少し長くなった本日のブログを閉じたいと思います。
ジョブ型の米国、メンバーシップ型の日本、いずれもそれぞれの環境変化の中で課題を乗り越えていくためには、意図する、せざるとにかかわらず、相手国の仕組みの良い部分を取り入れてきていることは自然であるし、その流れは今後も続くであろう。しかし、双方がある一定の仕組みに向けて収れんしていくというわけではない。
日本のHRM業界をみてみると、米国発のトレンドワードを企業に売り込もうとする傾向が強い。コーチング、ワンオンワン(部下と上司の1対1ミーティング)、心理的安全性(チーム内で気兼ねなく発言できる状態)しかりである。
しかし、これらが注目される背景には、部下への指導、情報共有、チームワークなど伝統的ジョブ型では欠けていた部分を補うという意図が当然あるわけであり、メンバーシップ型の日本企業は無意識に取り組んできたことかもしれない。はやりの米国製をありがたがるあまり、実は日本製であることに気づかない、という愚は避けたいものだ。
(文責:吉田)