ニュース解説が分かりやすいと評判の池上彰さん。
日経新聞に「池上彰の大岡山通信 若者たちへ」というコーナーをお持ちで、
実際に大学でお伝えになった内容が書かれています。
そこに共感できる内容がありましたのでご紹介いたします。
(有料会員限定記事となっております。ご了承ください)
夏休みは大学生にとって集中講義の季節。私も複数の大学で集中講義を担当しています。この期間中、大学のキャンパスでは「教員免許更新研修の会場はこちら」という看板を見かけます。先生たちも暑さの中、勉強しているんだなと同情していたのですが、この研修を廃止することが検討されているそうです。
教員免許はもともと、いったん取得すればずっと有効とされていましたが、
2009年度からは研修受講による更新制度研修が導入されました。
現在の教員免許の有効期限は10年。
期限前に大学の教育学部などで計30時間以上の講習を受けることが
義務付けられています。
ちなみに、私が保有している資格のうち、
税理士資格は年36時間の研修受講義務はあるものの、
資格自体は更新制ではなく、終身有効です。
が中小企業診断士は5年ごとの更新が必要で、
その間に一定の実務と研修受講が要件となっています。
診断士の研修受講は有料で、5年で3万円程度。
教員免許の講習の費用も約3万円、と記事に書かれていました。
ではなぜ研修受講を要件としたのか。
これは、最新の教育法などを学んで、先生としての能力を高めることが目的でした。趣旨としては素晴らしいことに聞こえますが、現実は理想とは異なります。
大学の先生の中には教え方が稚拙な人や、最新の教育現場に疎い人もいますから、「研修は実践的ではない」という不満も出ます。
一方、研修を担当する大学教授に話を聞いたことがありますが、研修を受ける先生の中には、「研修を受けさえすればいいんだろう」という、やる気のない態度の人もいるというのです。これでは、どちらにとっても不幸です。(中略)
こんな状況なら、もっと実践的な研修にすべきだという声が出るのは当然のことでしょう。
池上氏は上のように述べたうえで、こんなふうに続けておられます。
ただし、もっと実践的であるべきだということは、「すぐに役に立つことを教えるべきだ」という意味ですね。でも、「すぐに役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」という言葉もあります。
せっかくの研修の機会であれば、じっくりと人生の意義について考えたり、他人に教えることの意味について熟考したりするチャンスでもあると思うのです。
また、教えることの下手な大学教授の話を聞かざるを得なくなったときの対処法はあります。実は私は54歳でフリーランスになった後、学び直しをしようと考え、いくつもの大学の社会人向け講座を受講しました。そのときに、教え方の下手な先生が登場して往生したことがあります。
そのときには考え方を変え、「この人の教え方は、なぜつまらないのだろう。この授業は、どうすれば面白く展開できるだろうか」とシミュレーションしながら聞いていました。まさに反面教師として利用したのです。これは、自分の教え方を改善する上で、役に立ったと思っています。
研修がすぐに役立つものでないからこそ意味がある、ということ。
そして研修からの学びはその中身だけにとどまらない、ということ。
どちらも、私にはとてもよく理解でき、共感できる点です。
業界の常識は世間の非常識、という言葉は、
どの業界にも言えるのではないか、と思っています。
この言葉を仮に教育業界にあてはめるとすれば、
教員研修の機会は世間の常識を知る、業界外のことを知る、
人の輪を広げるなど、むしろ実践的でないことに時間を割くことが
よいのではないか、と感じます。
そして、学びの材料は「よい研修」にしかないわけではありません。
池上氏同様、私も反面教師として研修を利用したことは数多くあります。
教える職業だからこそ、教えられる際に気付くことはたくさんあるはずです。
更新研修がなくなっても、研修の機会はあってほしい、と願っています。
自らを高める学びの場を、教員各位が自ら積極的に求めて下さいますように。
(文責:吉田)