普段は新聞記事のご紹介が多いこのブログですが、
たまには税理士らしく?、税務の話題をお届けいたします。
まずはこちらのYahoo!ニュースをご覧いただきましょう。
日本学生支援機構は(2020年)12月22日、機構から奨学金を借りた社員(本人)に代わって勤務先企業が代理返還できる新制度を、4月1日から導入すると発表しました。近年、人材確保の観点から地方自治体や企業が奨学金の返還を支援するケースが増えています。
借りたものは返すのが当然、とはいえ、
奨学金を返すのは結構大変なものです。
近年はその奨学金を勤務先が負担してくれる制度も増えているようで、
奨学金にお世話になった新社会人としては有難い限りでしょう。
そして、ご覧いただいたYahoo!ニュースが今月初めに流れました。
これまでの企業負担と、今回創設された代理返還のちがいはどこにあるのでしょうか。
企業が従業員の奨学金返還分を負担する際には、これまで、
「給与に上乗せして本人に支給」→「本人が奨学金を返す」
という流れしか認められていませんでした。
この場合の大きな問題は、「上乗せ支給額に所得税がかかる」ということ。
例えば月2万円を返還しなくてはいけない場合、
その2万円を給与に上乗せして企業が従業員に支払っても、
そのうち従業員が手にできるのは所得税天引き後の金額。
所得税分は本人が負担せざるを得ませんでした。
なぜそんなことが起きるのかと言えば、
「いくら企業が奨学金返還のためといって本人に支給しても、
本人が必ずしもそのためにお金を使うかどうか分からないでしょ」
というのが国税当局の考え方だからです。
お金に色は付いていないので、そう言われてしまうと困ってしまうのです。
しかし今回の制度は本人を経由しません。
すなわち「企業が直接借入先に返還する」、
だからこそ「代理返還」という名前が付いているのですね。
これは先ほどの論理とは異なりますので、
所得税を課税しないことができるわけです。
国税庁も以下のように見解を示しています。
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奨学金の返済に充てるための給付は「学資に充てるため給付される金品」に該当するか|国税庁
所得税法第9条第1項第15号《非課税所得》は、学資に充てるため給付される金品は、給与その他対価の性質を有する一定のものを除き、非課税と規定しているところ、その貸与を受けた奨学金の返済に充てるための給付については、給付される金銭そのものがその奨学金の貸与者に支払われ、直接学資に充てられていないことから、その給付は原則として「学資に充てるため給付される金品」には該当しません。
しかしながら、奨学金の返済に充てるための給付は、その奨学金が学資に充てられており、かつ、その給付される金品がその奨学金の返済に充てられる限りにおいては、通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を潜脱する目的で給付されるものを除き、これを非課税の学資金と取り扱っても、課税の適正性、公平性を損なうものではないと考えられます。
照会の場合、本件奨学金は支援対象者が修学する上で必要となる費用の額の範囲内であり、かつ、本件支援金はA県からB財団に直接送金され、本件奨学金の債務残高を超える金額にはならないことから、本件支援金が現に本件奨学金の返済以外に流用されることはないものと認められ、本件支援金を「学資に充てるため給付される金品」に該当するものと取り扱って差し支えありません。
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コロナ禍によって、家計がひっ迫したことで、
私学への進学や在学が難しいケースが出てきていることを
私も少しずつ耳にするようになりました。
奨学金の制度がこの状況を少しでも打開してくれることを願って、
本日の記事を締めたいと思います。
(文責:吉田)