大学の研究力が低下した背景について指摘する記事が、
過日の日経新聞に掲載されました。
読み応えある記事ですが、ご紹介します。
(有料会員限定記事となっております。ご了承ください)
大学に対して経営効率の向上を求める政治、行政。
補助金や科研費による財政援助で、国立大の経常費用は約7千億円増加している、
にもかかわらず国際競争力は低下するばかり、との主張です。
これに対して国立大学は、
- 財源の総額が増加しても大学の判断で使える財政支援額や任期付きでない常勤教員数は減っており、基盤的経費の充実が必要
- 運営費交付金の配分に成果主義を適用することは基盤的経費の競争的経費化になる
- 国際的な研究力(引用の多いインパクト論文の占める割合)の低下は、大学への投資が少ないことと中間層の大学への配分減が原因ではないか
と反論しているそうです。
では実際のところ、計算書類にはどんな変化が見られるのか、
ということに着眼し、分析を試みた結果がこの記事に掲載されています。
国立大全体では、次のようなことが言えるとのこと。
- 法人化初年度から17年度までの間で運営費交付金が約1割強削減されたのに対し、経常費用は約3割増加
- 教員人件費、職員人件費、教育経費、研究経費はそれぞれ5.8%、30.6%、58.7%、33.2%増加
- 一方で、人件費比率(経常費用に占める人件費の割合)は56.2%から49.1%へ低下
- 背景には、付属病院収益の改善(39.3%増)と、寄付金・受託研究等の大幅な収入増(153.7%増)、法人化後の補助金の大学会計への計上が寄与
これらをもって、
「教育研究活動の活性化と効率化が両立した数値」
「法人化の仕組みはマクロ的には成功している印象」
と筆者は指摘しています。
しかし、これらの数値を大学特性別に見てみると様相は一変。
上のグラフにも示されていますが、
8つの大学特性別に教員人件費の変化をみると、
「全体」では5.8%の増加に対し、
「教育系」と「総合系・病院無」の2つはそれぞれ8.0%と5.0%の減少。
さらにはこれらに加え、文科系の2校、理工系の8校、総合系・病院有の4校の
合計36大学でも教員人件費が減っている、とのことで、
86国立大学の実に4割強で教員への人的資源配分が低下したことを示しています。
こうした大学間の差が生じるのは、自由に使える外部資金の獲得力に差があるからである。外部資金を独自に増やせなければ、人件費を削減する以外にすべはない。
学校において金額の多くを占めるのが人件費。
財政構造を変える際には人件費に手を付けざるを得ないのは
私学でも同じです。
ただ、いわゆる公立校においてこのような競争原理を強めることで、
本来公立校が担うべき役割(例えば一定水準を満たした教育環境の確保)
が果たして十分担えるのか、という点に不安も感じます。
国立大、という名称ではありますが、国立大学法人制度が導入され、
公的性質は薄まっているのかもしれません。
その意味では私学と同様、「経営」という比重が高まっているとも言えるでしょう。
今回の記事は、以下の提言で締められていました。
国立大学側も競争的資金の金額・期間の不安定リスクをヘッジするため間接経費等をプールし、資金が不足時には借り入れ、充足時には預け入れるようにして、若手教員の安定雇用を実現する制度などを検討してよい。同時に各大学も政府の特定目的の補助金等の外部資金を自己の中期計画の中に取り込み、自律的な活動と組み合わせ、全体としての教育研究活動を高める賢い戦略が求められる。
学校にも中期計画が必要です。
ぜひともご一考を。
(文責:吉田)