本日は教育の中でも「研究」に関する環境整備の状況について見てみることにしましょう。
文部科学省HPより。
平成27年度「学術情報基盤実態調査」の結果報告について -大学における研究教育活動を支える大学図書館及びコンピュータ・ネットワーク環境の現状について-:文部科学省
上記ページを開くと、まずはこんな解説が掲載されています。
文部科学省では、国公私立大学の大学図書館やコンピュータ・ネットワーク環境の現状を明らかにし、その改善・充実への基礎資料とするため、平成17年度から学術情報基盤実態調査を毎年調査しています。
10年以上も継続して実施されているこの調査ですが、それ以前は「大学図書館実態調査」という名称だったそうです。
さて、今回調査の結果の主なポイントがまとめて掲載されていますので、まずはそちらをご覧いただきましょう。
【大学図書館編】
図書館資料費の総額は、約730億円であり、前年度より約24億円増。そのうち、電子ジャーナル経費は、約276億円であり、円安の影響等もあり前年度より約30億円増。
オープンアクセスの観点から教育研究成果を無償公開する「機関リポジトリ」を持つ大学は、440校(全大学の56.5%)となり、初めて過半数を超えた。
学生の主体的な学びを促すアクティブ・ラーニング・スペースは、411校(全大学の52.8%)が設置し、これも初めて過半数を超えた。【コンピュータ及びネットワーク編】
セキュリティポリシーの策定状況は、国立大学では全校で策定されているが、公立大学では84.9%、私立大学では64.9%。
高速計算機(スーパーコンピュータ)の設置は、32校で計147台となり、前年度より22台増加。国立大学の65.1%がスーパーコンピュータを利用(他機関のものを利用する場合を含む)。
情報システムのクラウド化は、594校(76.3%)が推進。101校(13.0%)が運用を検討中。
クラウド化の効果として、469校(79.0%)が「管理・運用等にかかるコストの軽減」を、448校(75.4%)が「利便性・サービスの向上」を挙げている。
そして、概要を読んで個人的に気になった点を以下、採り上げてみます。
まず「図書館資料費の内訳」より。
平成 26 年度の図書館資料費の総額のうち、電子ジャーナルに係る経費は 37.8%(約 276 億円)であり、前年度と比べて 12.1%(約 30 億円)増加した。一方、紙媒体の資料(図書と雑誌の合計)に係る経費は減少している。
予想通り、と言えばそうですが、書籍は紙媒体から電子媒体へと移っていっています。
この要因についても、以下の通り記載があります。
平成 25 年度から 26 年度の間に、電子ジャーナル経費が増加した背景には、外国為替の変動(円安)、電子ジャーナル価格の上昇、ジャーナルの紙媒体から電子化への切り替えが進んだことなどが影響している。
文部科学省では、平成 26 年 8 月の「ジャーナル問題に関する検討会」の報告書を踏まえ、①大学に電子ジャーナル契約形態の適切な見直しを促すとともに、②研究成果を無償で公開・流通させるオープンアクセスの推進等に取り組んでいる。
今後は小中高においても電子媒体への変化がより大きくなってくるのではないかと感じます。
経営の観点から言うなら、お金の「使い道」が変わる、ということになるでしょうか。
次に「電子書籍のタイトル数」より。
大学図書館で導入している電子書籍のタイトル数(延べ数)は、平成 26 年度までに約 509 万タイトルに増加した。その内訳としては、国外出版社によるものが約 96%であり、国内出版社によるものは約 4%となっている。
電子書籍は確かに増えているが、国内出版社によるものはそのうちわずかである、という事実。
この点についても、現状の実態が以下の通り付記されています。
文部科学省の科学技術・学術審議会/学術情報委員会「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について」(平成 25 年 8 月)で紹介されているとおり、洋書については電子化が急速に進んでおり、10 万タイトル以上の電子書籍を提供している大学も数校ある。
「洋書については」電子化が急速に進んでいる、となっています。
今後の動向が気になるところです。
さらに、「学修環境の整備」より。
アクティブ・ラーニング・スペース(複数の学生が集まり、様々な情報資源を活用しつつ議論を進めていく学習スタイルを可能にするスペース)は、平成 27 年度は411 校(52.8%)に設置されている。3 年間で約 2.3 倍に増加し、初めて過半数を超えた。
アクティブ・ラーニング・スペースの設置が相次いでいることは私自身も肌で実感しています。
この動きも大学のみならず、中高でも現に強まっています。
本結果にも以下の付記がなされています。
中央教育審議会答申(平成 24 年 8 月)等により、学生の主体的な学びを促すアクティブ・ラーニングが推進されていることを背景として、そのためのスペースを設置する大学が増加している。
また前出の「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について」(平成 25 年 8 月)では、学生による主体的学習の効果を高めるためには、「多様な空間やコンテンツを提供する環境を整備することに加えて、大学院生による学習支援、図書館員によるレファレンスサービス、教員による指導助言など、学生を支援する体制の構築が不可欠」としている。
ちなみに、今回ご紹介しているこの調査結果の概要報告書中にはアクティブ・ラーニング・スペースの実例が紹介されていますので、もしご興味があればそちらもご覧いただければと思います(以下のリンクのp.19~20に掲載)。
最後に、「セキュリティ対策」について。
セキュリティポリシーは、国立大学では全校で策定されているが、公立大学では84.9%、私立大学では 64.9%となっている。
私大の率が低くなっているのが少し気になります。
セキュリティポリシーの重要性についても、以下の通り付記されています。
情報セキュリティポリシーは、一般的には、「情報セキュリティ対策の基本方針」「情報セキュリティを確保するための体制」「対策基準及び実施手順」等を規定するものであり、教育研究情報を管理する大学にとって、その策定は不可欠と考えられる。
国立情報学研究所は、情報セキュリティポリシーの策定や改正の際の参考となるよう、「高等教育機関の情報セキュリティ対策のためのサンプル規程集」を公開している。
学校がどんな環境を整備するかは、そこで学ぶ子どもたちにとって大きな影響を与えることでしょう。
一方で、限られた財源をどのように活用して環境整備を行うかは、まさに経営の優先順位をどうつけるかにかかっています。
ぜひ御校なりの答えを見出していただきたいと思います。
本調査結果の全体については以下からご覧ください。