いろいろな学校を訪問している私ですが、例外なくどの学校でも気にされていることのうちのひとつとして、「募集」というテーマを挙げることができます。
生徒をいかにして募集するか。
このテーマには考えるべきポイントが数多く含まれているとは思うのですが、先日初訪問したある私学の事務長さんから、とても興味深いお話を伺いました。
この私学は、私から見ればこれまで継続して募集が成功してきている学校さんです。
お話の中では、高校のみならず中学の生徒さんもずっと右肩上がりということをお聞きしましたので、中学受験市場が縮小していると言われる中でも堅調な募集状況を続けていらっしゃることが垣間見えます。
ではその強みは何なのかと、興味深くいろいろなお話を伺ったのですが、あくまで個人的な感覚としては
「教育内容や進学実績にそれほど大きな特徴のない学校」
という印象でした。
もちろん、長年の活動によって学校そのもののブランド力があることは間違いないと思うのですが、それにしてもそれだけで生徒が集まってくれるほど、現在の私学の経営環境が良いわけではありません。
そんな中で、私が大きな強みだと感じたことがひとつ、ありました。
それは「営業マインド」。
この私学の先生方、特に高校の先生方はお一人の例外もなく、公立中学校回りをされるそうです。
もちろん、高校のPRと受験生の獲得のため、です。
募集を担当する部署の事務職員さんが同じ活動をする例は多く耳にしますが、それに比べてこの学校さんで行っているような、先生が自ら営業活動を行う学校は多くないと感じています。
そのメリットは明確で、教員だからこそ伝えられる現場の強みがあり、かつ質問があった際にもその場で回答できる事柄の幅広さは事務職員さんとは比較にならないでしょう。
聞けば以前、この私学の校長として、民間企業出身者である公立校長が赴任されていたとのこと。
生徒募集に対する意識がその時に変化したのかどうなのか、詳しいところまでお聞きすることはできませんでしたが、ひょっとしたらそのことも多少影響しているのかもしれません。
私がそんなことを思うのは、いくつかの私学でも同じような取組みをしたいと思っているのに、
「現場の先生方はそのような活動をひどく敬遠する」
というご意見をたくさん聞いてきたからです。
自分たちの仕事は集まった生徒に対して教育サービスを提供することにあるのであって、生徒を集めることではない。
確かにそれは正論かもしれませんが、では生徒が集まらなければ先生方は仕事を失うのでは…?というところまで想像が至らないのが多くの学校における現状ではないでしょうか。
私自身、学校において最も重要なのは教育内容である、と確信しています。
そして、私学の皆さんがよくおっしゃる「募集対策」という言葉があまり好きになれないのも事実です。
(募集は刹那的な『対策』ではなく、もっと根治的な『計画』や『シナリオ』が必要だと思うからです)
が一方で、学校ならではの教育内容を実現するためには、「経営の安定」は最重要の前提条件である、ということも疑っていません。
その意味において、いかに自校と市場の接点を見出し、志願する生徒を確保していくかということはとても重要なテーマです。
組織において「役割分担」は必須の考え方ですから、教員と職員でなすべきことを分けるのは自然なことでしょう。
が、役割を分けたからと言って、自らが持たない役割について意識まで手放すことはありません。
いや、むしろその意識まで手放してしまえば、組織の目的を手放したことに等しいのではないでしょうか。
教員と職員の意識の距離を縮めること。そしてそれは大きな目的である「学校の未来への継続」という大きな目的の下にあることを、決して忘れてはならないと思うのですがいかがでしょうか。
(文責:吉田)